Zoomで「本物の人間」バッジが使えるように。ディープフェイク対策の新しいしくみと、今日からできるなりすまし対策
Zoomで、参加者が本物の人間かを確かめてバッジを出す「World ID for Zoom」が、10月18日に法人向けに世界で使えるようになりました。虹彩・自撮り・会議の映像を照らし合わせるしくみ、日本での使い方、虹彩を預けることへの懸念、バッジがなくてもできるなりすまし対策をまとめました。
ビデオ会議に映っている上司や取引先は、本当に本人でしょうか。AIで顔や声をそっくりにまねる「ディープフェイク」が進み、そんな心配が冗談ではなくなってきました。
そこで10月18日、オンライン会議のZoomで、参加者が「本物の人間」かどうかを確かめて、名前の横にバッジを出すしくみが、法人向けに世界で使えるようになりました。手がけるのは、OpenAIのサム・アルトマン氏が共同で立ち上げた「World(ワールド、旧ワールドコイン)」です。
この記事では、しくみと日本での使い方に加えて、バッジがなくても今日からできる、なりすまし対策をまとめます。
この記事のポイント
- 「World ID for Zoom」は、虹彩(目の模様)の登録写真・その場の自撮り・会議の映像の3つが一致すると、「ヒューマンバッジ」を表示する
- 対象はZoomの法人(エンタープライズ)のお客さん。個人が無料のZoomで使うものではない
- 日本にも虹彩を登録する機械(Orb)が150か所以上ある。ただし、変えられない生体情報を預けることへの懸念も残る
- バッジがあってもなくても、お金や機密の依頼は、会議の画面だけで決めないのが基本
何が始まったの?
Worldは10月18日、Zoom向けの本人確認アプリ「World ID for Zoom」を、Zoomのアプリストア(Zoom Marketplace)で正式に公開しました。4月から一部の会社で試してきたもので、今回からZoomの法人のお客さんなら、世界中で導入できるようになりました。
確認が済んだ参加者には「ヒューマンバッジ」が付き、会議のほかの参加者からも見えます。
しくみ:3つの画像が一致したら「本物の人間」
| 照らし合わせるもの | いつ撮るか |
|---|---|
| 登録の写真 | 「Orb(オーブ)」という球の形の機械で、虹彩と顔を登録したとき |
| 自撮り | 会議中に確認を求められたとき、自分のスマホのWorld IDアプリで撮る |
| 会議の映像 | ほかの参加者に見えている、その場の映像の1コマ |
3つがすべて一致したときだけ、バッジが表示されます。Worldの説明では、確認に使うのは映像だけで、音声や会議の文字起こしは使わないとしています。
会議を開く人(ホスト)は、会議の途中で参加者に確認を求めたり、バッジの有効時間を決めたりできます。入室前に確認を済ませないと会議に入れない「待合室」の機能も、近く加わる予定です。
なぜ今?
きっかけとしてよく挙げられるのが、2024年に英国の設計会社Arup(アラップ)の香港の拠点で起きた事件です。社員がビデオ会議に呼ばれ、画面に並んだ幹部たちの指示どおりに送金しました。ところが、その幹部たちは全員がディープフェイクで、被害は約2,500万ドルにのぼったと報じられています。
Worldは、映像の不自然さを見つけてディープフェイクを見破る方法は、AIの進歩で頼りにならなくなりつつあるとしています。そこで、「偽物を見破る」のではなく、「本物であることを先に証明しておく」発想に切り替えたわけです。
日本でも使える?
会社としては導入できる
World ID for Zoomは、世界中の法人のお客さんが対象なので、日本の会社も導入できます。ただし、料金は公表されていません。導入を考える会社は、Worldに問い合わせることになります。
Orbは日本に150か所以上
バッジを付けるには、参加する一人ひとりが、事前にOrbで虹彩を登録しておく必要があります。
日本では、リラクゼーションサロン「Re.Ra.Ku(リラク)」を運営するメディロムグループと組み、150か所以上にOrbが置かれています(2026年3月時点の発表)。全国3,000か所ほどまで増やす計画です。会社がOrbを自社のオフィスに置くこともできます。
日本では、マッチングアプリのTinderでも、World IDで「本物の人間」のバッジを付けるしくみが先に試されてきました。
個人のZoomでは、まだ関係が薄い
今回の機能は、会社がまとめて導入するものです。個人が無料のZoomで友人と話すぶんには、今のところ関係ありません。もし会社で導入されたら、Orbでの登録やアプリの準備を求められることになります。
気になる点:虹彩を預けるということ
便利な一方で、気になる点もあります。
1. 虹彩は、パスワードのように変えられない
パスワードは漏れたら変えられますが、目の模様は一生変えられません。Worldは、プライバシーを守る作りにしているとしています。それでも、自分の体の情報をどこに預けるのかは、慎重に考えたいところです。
2. 海外では、当局から待ったがかかった例もある
Worldの虹彩の登録は、これまでにケニアで一時止められたほか、ドイツのバイエルン州の当局からは、データを消せる手続きを整えるよう命じられています。タイやフィリピンでも、止めるよう求められたと報じられています。
3. バッジが示すのは「人間であること」
公式の説明を読む限り、バッジが示すのは「画面の顔が、Orbで登録した本物の人間と一致する」ことです。その人が名乗っている名前や役職、依頼の中身が正しいかどうかまでは、保証してくれません。
バッジがなくても今日からできる、なりすまし対策
ディープフェイクのなりすましは、会社だけでなく、家族や知人を名乗る形でも起こりえます。次のことは、バッジがあってもなくても役立ちます。
- お金や機密の依頼は、会議の画面だけで決めない:送金や、パスワード・資料の受け渡しを頼まれたら、いったん会議を終えて確かめる
- 別の連絡手段で折り返す:相手から聞いた番号ではなく、もともと知っている電話番号や社内のチャットで、本人に確かめる
- 「急いで」「内密に」は疑う合図:だます側は、確認する時間を与えないように急かしてきます
- ひとりで決めないルールを作る:会社なら、送金は2人以上で承認する。家族なら、いざというときの「合言葉」を決めておく
AIを使った攻撃については、AIエージェントだけで100社超に侵入した事件の記事でも取り上げています。
このブログの考え方
「あなたは人間ですか」と画面に確かめられる。少し前までは、ネットの画像認証くらいでしか見かけなかった問いが、会議の場にまで広がってきました。それだけ、AIが人に近づいたということでもあります。
ただ、バッジが証明できるのは「人間であること」まで。信頼できる相手かどうかは、結局は人どうしの確かめ合いにかかっています。AIと人間のあいだに線を引く技術と、人と人のあいだの確認。その両方があって、はじめて安心できるのだと思います。
まとめ
- Zoomで、参加者が本物の人間かを確かめる「World ID for Zoom」が、10月18日に法人向けに世界で使えるようになった
- 虹彩の登録写真・自撮り・会議の映像の3つが一致すると、「ヒューマンバッジ」が付く
- 日本の会社も導入でき、Orbは国内150か所以上にある。ただし料金は非公開で、虹彩を預けることへの懸念もある
- バッジがあってもなくても、お金や機密の依頼は、別の連絡手段で本人に確かめてから
参考資料
- World ID for Zoom: Proof of Human for video meetings(World、2026年10月18日・英語)
- Zoom teams up with World to verify humans in meetings(TechCrunch、2026年4月17日・英語)
- MEDIROM Partnership Expands Tools for Humanity Orb Deployments in Japan Retail Locations(ID Tech、2026年3月3日・英語)
- World(coin) must let Europeans comprehensively delete their data, under privacy order(TechCrunch、2024年12月19日・英語)
- 「ディープフェイク詐欺」にAIで対抗、セキュリティ対策の最前線(Forbes JAPAN)
※ 記事の内容は、2026年10月26日時点の情報をもとにしています。



